大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和41年(ワ)11399号 判決

原告 佐藤はるゑ

右訴訟代理人弁護士 古長六郎

同 古長設志

被告 明治商事株式会社

右代表者代表取締役 渡辺千修

右訴訟代理人弁護士 前田知克

同 福岡清

右訴訟復代理人弁護士 水田博敏

同 清水芳江

同 横田幸雄

主文

被告は原告に対し、金三十一万二千百九十九円及びこれに対する昭和四十一年十二月六日から右支払済に至る迄年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを五分し、その四を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

この判決は原告勝訴の部分に限り金十万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

第一、当事者双方の申立

一、原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し、金百五十六万二千三百円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から右支払済に至る迄年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求めた。

二、被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

≪以下事実省略≫

理由

原告が被告から昭和四十年六月八日に別紙目録(一)記載の店舗部分(以下本件店舗という。)を飲食店営業を目的とし、期間を三年間、賃料一箇月金八万円(賃料が坪当りの金額を基礎として定められていたか否かの点は措く)、毎月二十五日に翌月分払い、敷金九十万円、賃貸人において電気、ガス、水道、冷暖房及び衛生等の諸設備を完備し賃借人に使用せしめる等の約にて賃借したことは当事者間に争がなく、≪証拠省略≫によれば、本件店舗には別紙目録(二)記載の什器備品等が附属せしめられていて、これらも賃貸借の目的に含まれていたこと、原告は右賃料とは別に冷暖房費用、電気料金、水道料金等を支払う旨をも同時に契約したことを認めることができ、また、右賃料が昭和四十一年二月分以降一箇月金七万二千円に減額されたことは、被告において明らかに争わないとろである。

ところで、本件店舗の属するビルディングは地上六階地下一階建であって、同店舗はその地階に位置することは当事者間に争なきところ、原告は被告において同店舗の換気、冷暖房、排水等の諸設備につき右約定の完備の義務を尽くさなかったために損害を被ったと主張するから判断する。

≪証拠省略≫によれば、原告は本件店舗を賃借後間もなく、昭和四十年六月十五日頃から同四十一年四月二十日迄の間において同店舗においてイタリー料理店「トワイライト」を営業していたこと(以下右営業を料理店営業という。)を認めることができるところ、先づ、換気設備は、≪証拠省略≫によれば、前記ビルディング全体に共用のもので、本件店舗内にも換気孔は設置されてあったが、原告の料理店営業より生ずる臭気、煙等をその調理室及び客席等から換気するにおいて、換気孔の数、換気の性能において十分とは云い難かったことを認めることができ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

尤も、原告が料理店営業中、原告方からの煙がビルディング全体に立ちこめるといった事態が生じたことは当事者間に争がないところ、この事態は、≪証拠省略≫に徴すれば、原告の料理店営業中における常態とは云い難く、むしろ、たまたま原告が一時に多量の煙を発生せしめたことと換気設備がこれを処するには不十分なものであったこととがあいまって、起ったものではないかと推認することができるところである。

次に冷暖房の設備は、≪証拠省略≫によれば、ビルディング全体に共用のもので、原告の料理店営業中、たまに故障することはあったが、全般的にはその設備として機能を発揮していたこと、けれども、本件店舗が前記のとおり地階にあるということのほか、地階通路の構造上、空気の通り抜けが不十分であるため、暖冷気の流通が滑らかでなく、その暖冷の効果は原告がその料理店営業をなすにおいて必要と感ずる程度には到底至らなかったのみでなく、その設備の運転時間は夜の十二時迄と定められてあったために、原告の料理店営業時間が、夜間午後六時から翌朝午前三時迄(昼間は、三時間営業であった)であることからして、右営業に十分役立つまでには至らなかったこと、原告は右冷暖房設備の補充として、クーラー一台、石油ストーブ一台を夫々に設置したことを認めることができ(る。)≪証拠判断省略≫

次に排水設備は、≪証拠省略≫によれば、本件店舗の外部に汚水を導く排水管はその床下を通る一本のみであったところ、原告の料理店営業開始後間もない昭和四十年七月に、先づこれがつまったことを初めとして、以後は、右営業中、再三に亘り(水道工事屋の手をわずらわしたのは右営業中、五、六回に及んだ)つまってしまったこと(右営業中排水管のつまることがあったことは当事者間に争なきところである)、そしてそのつまった原因のうちには、調理の際生ずる野菜くづや割箸様の固い物が排水管につかえたことに因るものもあったこと、しかし、排水管の口径は四十粍であって調理の水を一時に流すには小さく、原告及びその従業員らが注意しつつ水を徐々に流すように努めても、営業中のことであるから、これにも限界があり、時に流し台から水があふれ、調理場の床を濡らすことがあったこと、また、本件店舗入口附近において、時に地下水の滲出することがあり、調理場の床、客席等における排水設備が十分でなく、これに加えて、地階にあるため店舗全体が湿気を帯びた空気に包まれやすかったことを認めることができ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

しかしながら、≪証拠省略≫によれば、原告が料理店営業を開始する前、被告の前代表者渡辺明治が本件店舗において約一年間バー「好猟」を、また、原告においても料理店営業を廃した後の昭和四十一年八月末頃から同年十一月八日頃までの間本件店舗において、おにぎり屋「一条」を、更に原告が本件店舗から退去した後の昭和四十二年七月頃以降は、新たな賃借人がスナックバー「カサドール」を夫々営業しているが、右各営業において、前記換気、冷暖房、排水等の諸設備の機能が十分でないために、営業に支障を来すという事態はみられなかったこと、しかしまた、原告の料理店営業中における本件店舗の使用方法は、原告が既に本件店舗を賃借する前にイタリー料理店の経験も豊富であり、心知れた従業員をして料理店営業の調理に当らせていたのであって、決してづさんなものであったとも到底云い難く、とくに排水については、日頃排水管のつまることのないように意を用いていたことを認めることができ(る。)≪証拠判断省略≫

以上認定の諸事実及び本件証拠にあらわれた諸般の事情をあわせ考慮すると、本件店舗における前記諸設備はその機能において、原告の料理店営業をなすには、十分のものではなかったと云わざるを得ない。

そしてまた、≪証拠省略≫によれば、原告は本件店舗を賃借するにあたり、同店舗において料理店を営業する目的であることを明示し、被告はこれを了知のうえ、原告に対し、前記諸設備が右営業にあたり十分その機能を果すことを請けあって賃貸借契約を締結するに至ったことを認めることができ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

したがって、被告は本件店舗の賃貸人として前記諸設備の機能をもってしては、被告の料理店営業には十分でないことが明らかとなったうえは、右設備の改善によってその補充が可能であるかぎり、速かに改善をなすべき義務があるものというべきであるところ、≪証拠省略≫によれば、原告は料理店営業中、当時の被告代表者渡辺明治に対し、再三前記諸設備の修理、改善を求め、渡辺においても、その都度、右諸設備において改善の必要あることを認めて、なんとかするような回答をよこしながら、僅かに排水管のつまった際に修理業者を一、二度派遣し、その場限りの故障を修理したことがあったのにとどまったことを認めることができ(る。)≪証拠判断省略≫

したがって原告が被告に対して昭和四十一年四月二十八日到達の内容証明郵便をもって該書面到達後一箇月以内に前記諸設備の瑕疵の修理をなすよう求めたうえ、被告がこれに応じなかったので同年六月二日付四日到達の内容証明郵便をもって右修理義務不履行を理由として本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をなしたことは当事者間に争なきところ、≪証拠省略≫に照らせば右瑕疵の修理とは前記諸設備の改善を意味するものであったことは明らかであるから、被告には前記のとおり右改善の義務があるにも拘らず、これを尽さなかった以上原告の右解除の意思表示によって、原被告間の本件店舗の賃貸借契約は解除されたものというべきである。

ところで、原告は被告の右義務不履行によって料理店営業にあたり損害を被った旨を主張する。

しかしながら、原告において排水管修理のために支出したと主張するその費用(合計金二万三千六百円)については、その修理を要した具体的な故障の原因及びその原因と被告の右修理改善義務との間における具体的な因果関係について、本件全証拠をもってしてもこれを明らかにすることができず(例えば、排水管を原告の料理店営業と同様規模の営業において、通常十分とされている口径のものとすれば、当該具体的の場合に、故障を生じなかったとは、本件全証拠をもってしても輙くは断定し難い。)また、原告主張の休業補償(金二万四千円)及び営業収益減少による損失(金二十一万四千円)については、前記諸設備が通常、料理店営業をなすに十分な程度に改善されてあったならば、原告の当該料理店「トワイライト」営業において、如何程の収益をあげることができたか、また、現実にあげた収益について原告側に帰責的な事情もしくは、被告の改善義務とは無関係な一般的な、また個別的な事情の影響はなかったか等については、≪証拠省略≫のほかには、これに関する証拠はなく、しかも右各供述はいずれも具体的な根拠を欠き、当裁判所の輙く措信し難いところであって、結局、原告主張の損害についての賠償の請求は、その余の点の判断をなすまでもなく、全て理由がないものというほかはない。

次に原告の過払賃料の返還請求について判断するに、原告は本件店舗の賃料は、当初から昭和四十二年一月分迄は坪当り一箇月金六千百五十四円の定めであった(同年二月分については、坪当りの額が七万二千円の十三分の一の額の定めであったと主張する趣旨であろう)ところ、実施した結果は九坪しかなかったのに、十三坪分の賃料を支払っていたから、四坪分が過払いとなると主張する。けれども、≪証拠省略≫によれば、原被告が本件店舗の賃貸借契約締結にあたり作成した契約書には、本件店舗部分については「右記表示のビル地下一階都電通りに面する部分十三坪」と表示してあるにとどまり、右十三坪が実測面積なのか、また実測面積とすれば、どの範囲をさすのか、殊に原告が他の者と共用する階段廊下部分について、一部にせよ含むのか否かについての記載はなく、右当事者間においても、右契約締結にあたって、右「十三坪」の表示が具体的にどこの範囲の実測面積を示すものであるかについて確認しあったことは全くないこと、ところで本件店舗の内壁面に囲まれた(階段廊下部分を除き、更に壁柱等の厚みも除く)部分は九坪であるけれども、右当事者は賃料につき坪当りを原告主張の額としてこれに十三坪を乗じることによって、前記賃料額をきめたという事情にはないのみか、本件賃借物件たる別紙目録(二)記載の什器備品等についてこの分の賃料をいくらともきめていなかったこと、そして、そもそも原告の専用する本件店舗部分の範囲については、契約当初から当事者間に全く疑義がなく、原告は右範囲を見分のうえ、同所において料理店営業をなすことを目的として、同所使用の対価として前記各賃料額をきめたことを認めることができ(る。)≪証拠判断省略≫

右事実によれば、本件店舗の賃料は、原被告において同店舗の内壁面に囲まれた部分が実際に十三坪あることを確保するため、右坪数のあることを契約において表示し、この数量を基礎として賃料額が定められたという関係にあるものということはできず、本件店舗の状況に即して定められたものというべきであるから、原告主張の範囲の実測坪数が契約書表示の十三坪に足りなかったとしても、これを理由として前記八万円もしくは七万二千円という賃料が被告に不当の利得をもたらす過分のものであったというのはあたらない。

したがって、原告のこの点についての主張は、その余の判断をなすまでもなく、理由がないものというべきである。

次に、原告の敷金返還の請求について判断するに、原告が被告に対し、本件店舗賃貸借契約締結にあたり、敷金九十万円を差入れたことは当事者間に争いがなく、また既に認定したごとく右賃貸借契約が昭和四十一年六月四日解除され、原告は被告に対し、本件店舗を同年十一月八日に明渡したことは当事者間に争いないところであるから、被告は原告に対して、賃料、損害賠償等右賃貸借契約上の債権があれば、これを控除した残額につき、返還の義務があることは明らかである。

ところで、原告が被告に対し、昭和四十一年三月一日から前記賃貸借契約解除の時点迄は、賃料として、その後前記明渡の同年十一月八日迄は賃料相当損害金として、一箇月金七万二千円の割合による金員の支払をしていないことは当事者間に争ないから、この総額五十九万五千二百円(被告は五十九万二千八百円であると主張するけれども、これは誤算であると認める。)は右敷金額から控除されるべき筋合のものであるところ、原告は右期間のうち賃貸借契約存続中は、被告において原告の前記瑕疵の修理の要求に応じなかったのであるから、賃料債権は発生せず、また解除後は、原告において敷金返還との同時履行の抗弁権に基づき本件店舗を留置していたにすぎないから賃料相当損害金は発生していないと主張するけれども前認定の本件店舗における瑕疵もしくは設備の不十分なることにより、賃貸借契約存続中、原告の本件店舗の使用収益が全面的に不能であったとは到底認め難いことは前認定の事実によって明らかであるから、原告が賃料支払義務を当然に免れたものということはできないし、解除後の関係についても、敷金返還債権と賃借店舗明渡との間には、同時履行の関係を認め難いから、原告は被告に対し、前記本件店舗の使用占有に基づく賃料相当損害金の賠償義務を負わざるをえないものというべきであり、したがって、原告の右主張は、全て理由がないものというべきである。

したがって、敷金九十万円から前記賃料及び賃料相当損害金合計金五十九万五千二百円を控除した残額は金三十万四千八百円であるところ、原告が本件店舗使用にあたり費消したことにつき当事者間に争ない被告主張の電気料金一万八千三百五十円及び水道料金五千四百七十円合計金二万三千八百二十円は右より控除されるべきである。

そして被告主張の昭和四十一年二月及び三月分の暖房費金一万四千円、電話料金一万四千七百八十一円については、≪証拠省略≫によれば、原告において右各費用を負担支払うべきものであることを認めることができ、≪証拠判断省略≫他には右認定を覆えすに足りる証拠はないから、右合計金二万八千七百八十一円も控除されるべきである。

そうすると、被告が原告に対して返還すべき敷金額は金二十五万二千百九十九円であるというべきである。

次に原告の権利金の返還請求について判断するに、前認定の諸事実のほか、≪証拠省略≫によれば、原告は被告に対し、本件店舗の賃貸借契約締結にあたり、その主張の金十万円を礼金として差入れたこと、右礼金の授受に際しては、右当事者間に、その趣旨、或は返還の条件等について話合がなされたことは全くないのみか、むしろ、その受取書の作成すらも、右契約仲介の労をとった丸八不動産こと東条喜代の言にしたがって、意識的に必要なきものとして省かれたこと、そして本件における右礼金の意義を進んで按ずるに、本件賃借店舗の場所的利益、その造作設備或は前認定のとおり、かつて店舗として営業がなされたことがある事実等同店舗の有する営業上の有形無形の利益に対する対価の性質を有するものであり、原告主張の如き、本件賃借店舗の営業施設利用料としての意義のみに限定されたものではなかったことを認めることができ(る。)≪証拠判断省略≫

右事実によれば、本件店舗の賃貸借期間が前記のとおり三年間であったところ、原告は賃借後約一年五箇月で同店舗を明渡すこととなったとしても、原告は被告に対して右金員の返還を請求することはできないものと解するのが相当であるから、原告のこの点に関する請求は、理由がないものというべきである。

次に原告の造作物買取代金の請求について判断するに、≪証拠省略≫によれば、原告は本件店舗賃借の当初の頃に、同店舗内のカウンター表面のデコラの板の中央部が盛上っており、また土台が傾いているために物を置くと滑り落ちる状態であったため、これを修理し、また便所は、客席からこれを利用しようとするには調理室を通過しなければならなかったところ、客席から直接便所にいけるように、便所の扉の位置を付け変えたこと、また四谷保健所の指示にしたがって、ステンレス製流し台一箇を増設するとともに、既存の流し台一箇があったところこれをステンレス製のものとしたこと、右各費用の合計額は、右各工事及び設置の当時、少くとも六万円を要したこと、また、右各工事及び設置の結果は、専ら飲食店営業用たる本件店舗についてその価値を客観的に増加せしめるものであったこと、を認めることができ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

更に、原告は本件店舗の腐蝕していた床板を新規に取り替えた旨を主張するけれども、≪証拠省略≫によっても前記本件店舗の賃貸借契約解除後の昭和四十一年八月頃において客席の床板をピータイルに張り替えたということを認めることができるにとどまり、張り替え前の床板の状況については明らかでなく、結局、右認定の事実のみからは、右張り替えによる価値の増加を輙くは認め難く、他には右事実を認めるに足りる証拠はない。

したがって、以上認定の事実によれば、原告のカウンターの修理、便所の改造及びステンレス製流し台の増設、取替え(以下カウンター等の工事という)は造作物の付加或いは少くとも民法第六百八条第二項所定の有益費用償還請求の対象となるものと解すべきところ、被告は右造作部分については(有益費に関しても以下同様の主張をなすものと解しても、当裁判所の判断は、造作物買取の場合と同様である。)原告に対してその工事の同意を与えたことはないし、殊に本件店舗の賃貸借契約書第四条には、造作工事に関し、被告の文書に基づく承諾を要する旨を定めているところ、原告はかかる文書を求めたことは全くなかった旨を主張する。

しかしながら、カウンター等の工事は、前認定の事実に照らしても明らかな如く、本件店舗賃貸借における明示の目的である料理店営業に必要なる工事であるから、これについては、その工事の際、わざわざ被告の承諾を求めるまでもなく、右賃貸借契約締結にあたって、当然被告において了承しているところのものと解すべく、≪証拠省略≫によって原被告間にその存在を認めうる被告主張の如き本件店舗賃貸借契約書第四条記載の約定は、右契約目的を達するために必要な工事をその対象とするものではないと解すべきである。

そうすると、カウンター等の工事の際に、あらためて原告が被告の承諾を得たか、或いはそれが文書によるものであったか等を検討するまでもなく、その造作部分については、本訴における原告の買取請求の意思表示に基づいて(本件記録によれば、該意思表示を記載した訴状は昭和四十一年十二月五日に被告に到達したことが明らかである)被告はこれを買受けることとなったものというべきである。

ところで、前記カウンター等の工事の工事費用総額金六万円をもって、前認定の事実のほか、他に特段の事情なき本件においては、右買取請求時においても、その工事の結果の有すべき価額であると解すべきであるから、被告は原告に対し、金六万円をカウンター等工事の造作物買取代金もしくは償還すべき有益費(有益費としてでも請求することは、原告の本訴請求に含まれているところと解する。)として支払うべき義務がある。

したがって被告は原告に対し、前記敷金残金二十五万二千百九十九円及び右造作物買取代金もしくは償還すべき有益費金六万円合計金三十一万二千百九十九円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが本件記録上明らかである昭和四十一年十二月六日から右支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるものというべきであるから、原告の本訴請求は、右義務の履行を求める範囲においては理由があるからこれを認容すべきであるが、その余は理由がないからこれを棄却すべきである。

よって訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十二条を、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木健嗣朗)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例